「ドイツの農地制度〜クラインガルテンについて」その2

クラインガルテンは、主に都市部において発展してきた菜園作りのための庭で、その歴史もとても長いものでした。

時は19世紀初頭、200年ほど前のヨーロッパ各地では革命の起こっている時代です。
飢えや貧困の状況を改善するために「貧困者のための庭」の利用が広がりました。
その後、 19世紀半ばになると、街の急速な都市化や工業化により多くの人々が陰鬱な生活環境に追い込まれていきます。 工場労働者の労働環境は劣悪で健康を害する人たちが増えていきます。
そこで労働者や子供達の健康回復のために自然や栄養を提供するこの「クラインガルテン」が広まっていきます。

その後ドイツ各地に広まり、第一次世界大戦時代には、食料の自給のためにこのクラインガルテンが非常に重要になりました。当時は不動産の所有者が土地をリースすることが慣習となっており農地の保護の法的規制が欠落していたところ、これが人口の生存に大きく貢献した理由から1919年には利用者の権利を保護する法律が定められました。

このようにドイツでは国の保護の下、第二次世界大戦の終結後もベルリンには20万ものクラインガルテンがあったそうです。

現在でもドイツ国内では19の地域組織と15,200の協会で組織されているということを見ても、国をあげて国民の健康や自然を大切にする意識の高さを示す大きな指標となり得るのは当然のことではないでしょうか。

さて、これらの協会の社会的な機能としては、以下のことが挙げられます。

例えば
・有機農法の推進と農薬使用禁止
・街の緑化、開発の緩和、ビオトープと種の保護
・植物生息地のネットワーク化
・気候効果を通じて都市生活の質の向上
・園芸活動により栽培、収穫を行い、家族の健康繁栄
・自然との調和

教育面でも
・子供達への遊び場提供
・生物学における視覚的指導

人間の身体的、精神面において
・対人関係の促進
・仕事のストレスから開放され健康的な活動
・リラックスを提供
・失業者の場合、所属を意識化する場
・移民はホスト国でより良い社交と統合の機会の提供
・障害者は各クラブに参加し社交の場
・孤立を逃れる場所の提供
・菜園において植えつけ、成長、繁栄、収穫の経験
・高齢者には同じ関心を持つ人々を集めることで会話と静けさの場を提供

バイエルン州ミュンヘンのとある協会のスローガンがとても印象的でしたのでご紹介いたします。

喜びと友達を作り
全ての年齢層をつなぎ
全ての国籍を統一し
健康な気候を作り出し
一年を通しての緑の肺であり
空気の浄化と改善を保証します

地球温暖化の問題や深刻化する人種差別時代に、そして加えてコロナの時代にストレートに心に沁みるスローガン。

ドイツ国内のみならず、オーストリア・スイスなどヨーロッパ各地で取り組まれているこの制度ですが、単に緑地の有効活用としてではなく、100年前の法令を遵守しているドイツをはじめヨーロッパ各国の昔から変わらぬ自然と人間との調和を大切にする生き方に学ぶことが多いのではないかと思います。

これまで日本では、農家以外の人が農地を取得するのが難しい面もありました。一方で、農業従事者の高齢化に伴って、耕作放棄地の増加も問題となっています。そのような中、農地を一般市民への貸し農園として活用する取り組みも始まっていて、無農薬有機栽培の講習会なども行われてます。

これからのコロナ時代、いかに健全に自然と向き合うのか、日常を家族と共にどのように大切に過ごしていくのかを我々日本人も問われているような気がします。

【ご参考】
日本にも90年前からあるクラインガルテン制度:
http://www.jardins-familiaux.org/nations/jp/eng/jp_e_start.html

シェア畑:
https://www.sharebatake.com/blogs/news/275

筆者:正田 美幸 (Miyuki Shoda)
海外駐在を7ヶ国で経験し、30カ国以上の国々を巡る。
現在、オーガニックでの食やコスメ作りを通して自然の大切さを伝えている。

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