「ドイツのオーガニッククリスマスツリー」

南ドイツ在住の正田美幸さんによるヨーロッパのオーガニックフラワー情報。今回は、クリスマスツリーに関するレポートをいただきました。

いよいよクリスマスも間近となってきました。
街ではクリスマスマーケットも例年通り盛り上がりを見せ、行き交う人々はとても楽しそう。

旧宮殿の広場にも生木のクリスマスツリーが飾られ、夜にはここでコーラスも催されます。

街のメインストリートにも。
クリスマスは、ヨーロッパでは、やはり一年のメインイベントです。

このような賑わいの中、「ツリーをたくさん切り取って使用することはエコじゃないよね」という声を耳にしましたので、私も疑問に思い調べてみました。

まず初めに、そもそもそクリスマスツリーの起源とは?
Wikipediaから紐解いてみます。

723年、ボニファティウス宣教師がイギリスの西部からキリスト教の布教の為にゲルマニアにやってきたことに始まります。現在のヘッセン・フリッツラー(FRITZLAR)にあたる場所での出来事。
そこには大きな樫の木(オーク)があり、この神聖な高く成長したオークには雷がよく落ちることから、北欧神話の雷神トール「トールのオーク」として崇められていたと言います。
キリスト教の布教を目的にこの地にやって来たボニファティウスは、このような異教の崇拝をやめさせ、皆をキリスト教へ導こうと、このオークを切り倒すことにしました。

「トールのオークの倒伏を見るボニファティウス」(出典:Wikipedia)

そして「もしこの木が神聖なるものであるなら、自らに雷を落とせ」と、このオークに言い放つと、まるで奇跡の如く突然の突風が起こりオークをなぎ倒したといいます。
村の人々はボニファティウスに雷が落ちなかったのを見てキリスト教へ改宗していくことになります。
雷で倒れたオークのそばにはモミの若木が芽生え、ボニファティウスはこれを「奇跡の木」として言い伝え、キリスト教のシンボル的な存在として布教に用いていったということです。
そして、倒れた木で、この地に小さな礼拝堂を建て、現在はフリッツラー司教座聖堂が建立され彼の銅像が建てられています。

このキリスト教のシンボル的な「奇跡の木」に飾りをつけ、クリスマスツリーとして飾るようになったのは15世紀。諸説あるようですが、一つは、パン職人の信心会がフライブルグにて聖霊救貧院に飾ったことに由来。もう一つは宗教改革で有名なルターが、星に見立ててツリーにろうそくを飾り付けたことが由来とも言われています。

今ではクリスマスのシンボルとして欠かせないツリーですが、今年はヨーロッパ生活11年となった筆者も、初めて実際に生木のツリーを購入してみることにしました。

12月初め、街の広場などではツリーの販売会が行われています。
大きなもの、小ぶりのものなど値段も4段階程度に分かれ、白いネットにかけられたツリーが並びます。

我が家の近くのカフェの広場では、50キロほど離れた山から来られた農家さんがツリーを展示販売しています。
クリスマス直前にツリーを用意する家庭もあるため、クリスマスイブの前日までここで農家さんの販売は続くようです。
大きな鉄の支柱に支えられたツリーの中から好みの形を選べるこのシステム、ありがたく迷った挙句の果て、末広がりで、先のまっすぐに伸びた形の良いものを選び、かなり大きなサイズに夫からブーイング(笑
白いネットをかける機械も作業も初めて拝見するため、枝を閉じる作業を連写。
ポーランドから移住してきたという身体の大きな女性でしたが、さすがに一人での作業は大変そうでした。

私たち夫婦は徒歩5分の自宅へ、先端と幹の下をそれぞれ抱え、やっとのことで我が家に運び入れました。
すぐにモミの香りが部屋中に広がり、テンションは上がります。
支柱は翌日購入しようと思いましたが、色々アイデアを出し、結局6本入りの水のケースから1本を除き、そこへ幹を投入しました。我ながら良きアイデア!

飾り付けを終え、夜にはルターの様にロウソク(ミツロウ)を枝の先に灯しドイツ風ツリーを楽しむこととし、僅かの期間ですが、お部屋で安心できる大きな生木と過ごす幸せを味わってみます。

そう、この農家さんでは植林地の山で除草剤を使用していないのです。
キツネ、ヘビ、ヒキガエル、トカゲ、ヤマネなど自然の森の中に存在している食虫動物に除草を任せ、生き物の「生活空間」を破壊しないことが重要であるということでした。
また蜂の保護のサポートためにも果樹を栽培している農家さん、今後も地域のために自然を生かす活動をお願いしたいと思いました。

さて、本題の生木のクリスマスツリーはエコであるか、という疑問の解決のために、オーガニックのツリーのサイトをいくつか見つけたので、ご紹介したいと思います。

①フェアトレードのシステムによるタネの供給
形の良いノルドマンモミはツンと伸びた針状葉と香りが人気の商品このタネをジョージア(旧グルジア)から輸入。
現地の人が30メートルほどの高さの木に登り、命がけで積み取れる一つのモミの実はフェアトレードのシステムによると、50gで約130円、違法な取引で約30円、さらに下請けとなると23円。
このような取引でも仕事が少ないジョージアでの数少ない収入源となっている。
タネはジョージアから冷蔵保存されトラックでヨーロッパへ輸送される。大陸では年間7500万本販売される内の約60%の4500万本はこのノルドマンと言われている。

②オーガニック認証付きのツリー植林
①のような公正な取引によりタネを購入した農家が、栽培において化学農薬は使用せず、環境・地下水・土壌を保護している。
土壌の肥沃度を高める有機肥料のみを使用し、雑草はヒツジ(シュロップシャー羊)に駆除を頼ることにより除草剤の使用がなく、害虫は有益な昆虫により駆除されている。

③ 気候温暖化対策として
再利用可能な人工のツリーは、形状も変わらず長年使用可能だが、ホコリが積もり色が薄くなり、早くゴミとして廃棄される可能性が高くCO2排出が多くなる。
一方、自然に成長したツリーは市場に出るまでの8−12年の間に、空気中の大量な有害CO2を吸収でき、地域における販売により輸送ルートの燃料排出を最低限に留めることもできる。

④持続可能
③により、地元の農家から購入することで、その収益をさらに新たな植林に活用することが可能。また、このモミの木は根を深く伸ばすことから、ヨーロッパの乾燥した夏にも十分に存続可能で自らの力で成長し、持続可能な栽培を実現できている。

以上のことから、ツリーの植林は地球や地域にとっても大変エコな活動であることがわかります。ただ、好ましくないシステムで林業を営む農家もあり、ドイツ連邦環境自然保護協会(BUND)とバイエルン州が2017年に行った残留農薬のサンプリングテストをしたところ、9つの異なる農薬が見つかり、そのうち5つは現在EUで使用されている最も危険なものの1つだったそうです。多く検出された殺虫剤には急性毒性があり、冬の温められた室内では健康への影響も無視できないと言われています。またいくつかのツリーからはグリホサートも検出されたそうです。

環境大国ドイツでは、このように自然保護団体も各地に拠点を構え、調査が常時行われています。
従来のツリープランテーションでの除草剤、殺虫剤、殺菌剤が広く使用され、人々に「自然と人間に対する脅威」が受け入れられないことを環境保護団体も懸念してはいるものの、反面オーガニックツリーの供給箇所が10年前から14倍に増加していることは何よりも心強いことだと述べています。

オーガニック認証とは、より商品の信頼度が増していくことはもちろんですが、人々が地元の農家を応援していくことで初めて地元の森林の生態系が元の自然な姿に戻る、ということも念頭に置いておきたいことです。

家庭に供給されるツリーは約10年の歳月をかけて成長してきたもの。この日のために準備され少しづつ大きくなってきた子供達のようです。家族の健康や次世代への持続可能な環境・土壌作り・地下水などに循環していくことに想いを馳せて、植物への恩恵に感謝するクリスマスにしたいと思います。

筆者:正田 美幸 (Miyuki Shoda)
海外駐在を7ヶ国で経験し、30カ国以上の国々を巡る。
現在、オーガニックでの食やコスメ作りを通して自然の大切さを伝えている。