「いけばなとオーガニックフラワー」

日本オーガニックフラワー協会の副理事長であり、いけばな草月流の師範でもある中島まことさん(雅名:中島弘華さん)にお話を伺いました。

オーガニックフラワーとの出会いは、どのような経緯ですか?

19歳の時にいけばなの世界に入門しました。その後、ずっと花をいける立場にいましたが、2000年頃、使っている花がどのように栽培されているか知りたいと思い立ち、花農家さんを訪ねて回りました。
その際、複数の農家さんから「昔は自分達で種を採ったりして花を育てていたけれど、今は農協の指導に従って栽培している。」という話を聞きました。肥料や農薬、種や栽培方法など、全てを農協の指示どおりに行うことで、花を出荷出来る仕組みでした。ある農家さんでは、お嫁さんが農薬に弱い体質で体調を崩しやすいとも聞き、そこから、自身のいけばな作品では、オーガニックの花を使用するようになりました。

いけばな作品にオーガニックフラワーを使うにあたって、意識されていることはありますか?

当初は、なかなかオーガニック栽培の花は手に入らず、埼玉県で里山を保有している人から自生している植物を融通してもらったりしていました。
私のいけばなは「あるものを活かす」という信条です。19歳でいけばなを始めた頃、通い弟子だったため、いつも余った花や花器で練習していました。いけばなでは、自ら花を探し求め、器も自分で焼きといった人もいますが、私は、与えられた花、与えられた花器、与えられた場所で、いかに見せるかということを考えるスタイルで花をいけています。
野に咲く花はそのままの姿が一番美しいのですが、いけばなでは、葉を落とし枝を曲げ、人の我を通す側面もあります。野に咲く花を、どのように家の中に持ち込み自身の姿に飾るかは、生き方にも通じます。花は、どんな環境や場所、コンクリートの隙間からでも、なんとか咲こうとします。ですから、人もどんな環境でもどんな仕事でもいいから世の中で咲けばいい、そういったことを花を通じて表現してきました。

ビジネス雑誌のプレジデント2016年2/15号に企業経営者のいけばな体験の記事が掲載されました。(*1)
いけばなでは、葉や枝を切り落としますが、一度落とすと元には戻らない。残すべきか、落とすべきかの決断は、経営にも通ずるという内容でした。まさにその通りで、いけばなは、花をいける技術だけではなく生きる道を教えてくれるものなので、日本人として、もっと広まってほしいと願っています。
一方で、現在のいけばな界は流派の存続のために、いかに生徒を集めるかということや目に見える技術やお免状が優先になってしまって、本質的な魂が薄れてきているとも感じています。

(*1) PRESIDENT Online「経営トップが続々、生け花を習い始めたわけ」
http://president.jp/articles/-/17208

いけばなの世界では、オーガニックフラワーはどのように捉えられていますか?

花をいける時点でのいけばなの精神が伝わったとしても、その花の素性、つまり育ち方や栽培方法にまで考えが及ぶかというのは、難しいところです。農薬の怖さが消費者まできちんと知られておらず、長年花に触れていても栽培方法に関心の向かない方には、なかなか伝わりません。企業の華道部なども、これまでのつきあいなどから、使用する花の入手先を切り替えることは、難しいのが現状です。

私自身は、いけばな界では、ちょっと変わった人と見られることもあります。しかし、次世代へ繋がる元となるものを、今作らねばならないという一心で活動を続けています。

日本オーガニックフラワー協会の副理事長として、どのような想いやお考えをお持ちですか?

農薬や化学肥料を大量に使う、いわゆる慣行農法も、食料農産物の十分な供給という観点で意義があると考えています。花栽培についても同じです。ただし、慣行農法は環境負荷が高く、化学物質過敏症などの体調不良を訴える人がいることも事実です。
現在、日本の農産物のオーガニック栽培は全体の1%以下と言われていますが、人間の作ったシステムは人間が変えていけばいい、変えていけると信じています。花卉生産においても、せめて30%くらいまでオーガニック栽培が普及することを目指したいです。

また、今の花卉業界は、母の日やお彼岸などのイベント的な需要が大きいですが、特定の日に集中するだけでなく、もっと日常的に花を楽しむ暮らし方があってもよいと思っています。
近年、日本は物に溢れていて、あまり物欲がない人達も増えてきました。その中で花は、人の健康や心の豊かさなどに非常に関わりのあるものです。安全で花持ちがよく、健康的なオーガニックフラワーに親しむことで、元気な人はもっと元気になり、身体や心の具合の悪い人は改善のきっかけとなります。特に病院へのお見舞いなど、食べ物は退院してから美味しく食べればよくて、療養中は花の美しさや生命力に触れることで、回復へとつながります。実際に、これまで花を使った箱庭療法やテラリウムセラピーなども行ってきましたが、ストレス軽減、リラックス効果、室内環境改善効果などをはじめとして、さまざまな手応えを感じています。

日本オーガニックフラワー協会は、どのような活動をされていますか?

2017年度からの本格的な活動開始に向けて、現在、花の生産者と流通業向けのガイドラインを策定しています。また、行政と連携をとっていくために、農林水産省や地方農政局への働きかけも行っています。日本において「オーガニックフラワー」という新たな分野を確立し、環境に意識の高い消費者へ訴求し、花卉需要の底上げにつなげていきたいと考えています。

近い将来には、流派の垣根を越えて華道家の皆様とオーガニックフラワー展示会を医療機関内等で開催し、化学物質過敏症や、療養中、通院中の方々にも楽しんで頂ける場を提供させて頂きたいと思っています。さらに、教育や介護の現場、街路の花壇などにもオーガニックフラワーが利用され、日本の花卉産業の発展と、花を愛でる人々の生活が、より一層豊かになることを願っています。