Velvet Yellow 市村美佳子
花がファッション一辺倒になってしまって久しい。かく言う私も、ずいぶん長い間、毎季節ごとに出荷される新しい花や見たこともない珍しい花を追い求めて、仕事をして来た。そしてそれが私のフラワースタイリストとしての評価を高めてもくれた。
でも、ある朝の花市場で仲卸の社長から「これが近く発売される新種のラナンキュラスだよ」と見せられて、一瞬ぎょっとした。そのラナンキュラスは、花心のところから緑色の葉っぱのようなものが出ていた。集まって来た周りの花屋さんたちが、口々に「可愛い~~」と歓声をあげる中、私はひとりその場を立ち去るしかなかった。その新しいラナンキュラスは、私には、何かグロテスクで気持が悪いものにしか見えなかったのだ。
昨今の花市場には、そういった花があふれ、しかも世間では高く評価される傾向にある。しかし、そういった花は、どれも化学農薬と化学肥料の存在の上に成り立っているものが多い。姿形は珍しくファッショナブルだけれど、自然の摂理を度外視して、人間の都合のいいように改良?され、人間の都合に合わせて生産される。
そうした花を使って長年にわたって仕事をしてきたが、気が付くと、私は花をいけることに興味を失っていた。花を見てもこころが高ぶることもなく、ただルーティーンとして手を動かして花をいけているだけ、、、以前のようにワクワクしない日々。しかも当時は、ワクワクしない自分に気が付きさえしていなく、なんとなくうつうつとした日々が数年続いていた。
そんなある日、山形で完全オーガニックでバラを育てている方からバラが届いた。長さも大きさもまちまちのバラたち。せっかくのバラが弱ってしまわないようにと早々に、花瓶にひと枝なげ入れてみた。そうしたら、何故か突然涙がこぼれた。自分でも何がおきたか分からなかったけれど、涙は後から後からこぼれ落ちた。そして、あ~~~、なんて可愛い花なんだろうと、ただただ、有難いという気持ちで一杯になった。
この花は何が違うのか?言葉では説明出来ないし、頭では分からないけれど、バラの健やかなエネルギーに触れて、体は感動したのだと思う。
もちろん、ハレ日の特別な花の世界も否定するわけではない。ハレの日にはハレの花にしか出来ないことがあると思っている。でも暮らしの中の「日々の花」は姿形や、物珍しさではなく、健やかなエネルギーをもった花こそふさわしいのではないかと感じている。
そう言った意味で、橋本力男さん(*1)の花は、毎回箱を開けた瞬間から、気もちがいい。橋本さんの花たちは、ひと枝、花器に挿し入れるだけで、その場を浄めてくれるように感じる。
オーガニックフラワーと慣行農法で育てられた花の違いは?とよく聞かれることがあるが、それは、その花が健やかなエネルギーを発しているかどうか、それを感じるセンスがこちら側にあるかどうかにかかっていると思う。
(*1)日本オーガニックフラワー協会 理事長